飛行機に乗るためだけの場所から、「旅そのものを楽しむ場所」へ――。
2025年3月にグランドオープンした関西国際空港 第1ターミナルビルには、さまざまな雰囲気を楽しめることを追求した商業エリアから、できるだけ多くの人の使いやすさを追求した機械設備の導入など、たくさんのこだわりが詰まっています。第1ターミナルビル リノベーション完成までの舞台裏と、そこに込められた思いをお伝えします。
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K.T
関西エアポート株式会社 T1リノベーション部 デザイン・オペレーションコーディネーションチームに所属。技術部門で関西国際空港、大阪国際(伊丹)空港のビル設備、廃棄物施設、給排水施設などの維持管理業務を担う。2020年よりT1リノベーション部にて本工事の機械設備を担当。
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N.A
関西エアポート株式会社 T1リノベーション部 コマーシャルプランニングチームに所属。技術部門で維持管理業務、施設計画業務に従事した後、非航空系部門でテナント工事調整や直営店舗・ラウンジのリノベーション業務を担う。2018年からT1リノベーション部にて商業エリア・案内サインの計画・工事監理を担当。
めざしたのは、出発するまで楽しめる“新”空港の実現
ーーリノベーションを進めている第1ターミナルビルが2025年3月にグランドオープンを迎えましたね。リノベーションはどのようなコンセプトで進められたのでしょうか?
K.T:
リノベーションにあたって大切にしたのは「空港も旅の一部」として、お客さまの「Shaping a New Journey」をお手伝いしたいという思い。出発されるお客さまには日本を離れる前の最後のひとときを快適に過ごしてもらえるよう、海外からのお客さまには最後の最後まで日本観光を楽しんでもらえるよう、さまざまな部署が意見を出し合い、リノベーション工事が進められました。
N.A:
リノベーションのテーマの1つに「Create your own story」の提供があります。関西国際空港が単に搭乗までの待ち時間を過ごす場ではなく、お客さまが今までと違う新しい過ごし方を自ら発見できるような場になることをめざし、リノベーションが行われました。
ーー今回のリノベーションのポイントは?
K.T:
一つは、利用者が増えて混雑が生まれるなど、手狭になっていた国際線のキャパシティを拡大させたこと。加えて、出国手続きを終えたあとのエアサイドと言われるエリアを充実させたことです。この二つを叶えることで、空港体験の向上をめざしました。
ーーリノベーションにおける、お二人の役割を教えてください。
K.T:
私は空調機や昇降機などの設備工事の設計・工事監理業務を行っています。工事実施にあたり、関係各所と調整を行うことが私の役割の1つです。ただ今回のリノベーションは、第1ターミナルビルを通常運用しながら行われたので、お客さまの安全・快適を確保しながら計画を立て、作業を進めるのが何より大変で……。お客さまのいない深夜のわずかな時間に作業したり、仮設の設備を導入したりと、試行錯誤しながら進めていきました。
N.A:
私は主に第1ターミナルビル商業エリアと案内サインの計画・設計・工事監理業務を行っています。特に今回は、エアサイドエリアの充実はリノベーション工事の大きなポイントでしたから、工事の計画や管理だけでなく、入居店舗の選定や商品提供方法の検討などにも携わりました。
雰囲気の異なる4つのエリアで、誰もが楽しめる空港にリノベーション。
ーーではここからは、新しくなったエアサイドエリアに取り入れられた「MOODエリア」について教えてください。
N.A:
国際線出発エリアに、国内の国際空港では最大規模となるウォークスルー型総合免税店を設け、それを通り抜けた先に「MOODエリア」と呼ばれる飲食店・物販店の集まった4つのエリアを配置しています。それぞれFUN・CURIOUS・ACTIVE・PEACEFULという4つのテーマに合った雰囲気の異なる商業エリアが広がっていて、搭乗までの待ち時間に気分に合わせてお買い物やお食事を楽しめるようになっています。
ーー「MOODエリア」は、各エリアで雰囲気が異なっていて新鮮ですね。それぞれどのような空間をめざしたのでしょうか?
N.A:
「FUN」は軽やかな彩りやフォルムで誰もがパッと見てわかる陽気さを演出し、気軽にワイワイ楽しめる雰囲気を醸成しています。「CURIOUS」は優美さ、華やかさを表現し、日本の美しさを体感できる雰囲気を演出し、「ACTIVE」は活気と躍動感にあふれアグレッシブに楽しめる空間をつくり、「PEACEFUL」は心も身体も自然体でリラックスできるエリアにしています。
ーー「MOODエリア」完成までに苦労したのはどんな点でしたか?
N.A:
「MOODエリア」を作るにあたって「MOODコンセプト」というリノベーションのベースとなるものをつくりました。海外のコンサルティング会社に提案をお願いしたのですが、最初に上がってきたものは「海外の人が思う日本らしさ」が強く、私たちの考える日本らしさとはちょっと違っていて……。日本の建築基準法ではNGという内容もあったりして、何度も調整を重ね、表現したい「日本らしさ」をすり合わせていきました。
ーー「MOODコンセプト」を決めるにあたって、他の空港からヒントを得るなど、何か参考にしたことはあったのでしょうか?
N.A:
国内外のさまざまな空港や商業施設を見に行きました。欧州の空港を実際に見ることで、ウォークスルー型免税店の広い売り場の奥までどのように回遊性を高めるか、歩きながらアイキャッチしてもらうポイントをどう作るかの参考になりました。また商業施設だけではなく海外の会員制クラブも、いろいろな人たちが交流できたり、1つの施設でさまざまな過ごし方ができるという視点ではヒントになりましたね。
ーー「MOODエリア」には飲食店・物販店・サービス店などが並んでいますね。テナントの皆さんとはどんな風にコンセプトの共有などを行っていったのですか?
N.A:
テナントはMOODエリアの各テーマに合わせて選定しました。テーマに合わなくなってしまったり、コンセプトから外れてしまったりしないように、商品や売り場の構成など、店舗内装以外についても話し合いを重ねました。1つひとつのテナントと一緒に新しいお店を作り上げる作業は苦労も多かったですが、だからこそ完成してお客さまが楽しそうに買い物などを楽しむ姿を見たときはうれしかったですね!
ーー出発まで快適な時間を楽しく過ごすことができる「MOODエリア」の完成までには、何度も設備工事をするなど、地道な作業が続いたのではないでしょうか。
K.T:
MOODエリアのデザインが決まったあと、見た目や空間の雰囲気を壊すことのないように、必要な工事を行うのが私たちの仕事です。天井を見上げた時に目立たないところに機器を配置したり、天井と色味を合わせたりしながら、できる限りデザインを損ねないように工夫しました。
誰にとってもわかりやすい、案内サインができるまで
ーー案内サインの分かりやすさも印象的でした。新しくなった案内サインには、どんな工夫がされているのでしょうか?
N.A:
以前は紺色の案内板に白文字のサインを使用していましたが、今回のリノベーションを機に「焦げ茶色に黄色や水色の文字」に変更しました。大阪国際空港でも同様のカラーリングの案内サインを設置していますが、空港により天井の高さや空間構成・動線が異なるので、関西国際空港のエリアそれぞれに合った大きさ・レイアウトになるようサインレギュレーションを作り直し、分かりやすい案内サインとなるようにしました。
ーー関西国際空港はさまざまな国のお客さまが利用されるので、誰にとってもわかりやすい案内サインの完成までには苦労も多かったのではありませんか?
N.A:
私自身が方向音痴なので、海外の空港で案内サインを見ていても自分がどこにいるのかわからなくなってしまったことがあって……。だからこそ、誰にでもわかりやすい案内サインの表示や位置、間隔には相当こだわりました。今回のリノベーションでは商業エリアを周遊する形を取っているので、吊下げタイプの案内サイン以外にもマップ付きのサインを壁面に多く配置するなどの工夫をしています。
ーーほかにもリノベーションにあたり、改善されたポイントはありますか?
K.T:
関西国際空港で働く人の労働環境もよくしようと、お客さまの荷物を運びこむ作業場に空調設備を導入しました。作業者の意見を取り入れる形で実現したのですが、作業環境が改善されたとご好評をいただいています。
どんな人でも安全・安心に利用できる空港をめざして
ーー世界中のさまざまな人たちが利用する関西国際空港。どんな人にも利用しやすいようにリノベーションしたポイントはありますか?
K.T:
車いすが一度に数台乗れるような、大きなエレベーターを設置しました。大きくしただけでなく、車いすの方が真っ直ぐ乗り降りできるよう、床のカラーで優先エリアを識別できるようにしています。加えて、エレベーター内で閉じ込められたときに耳が不自由な方でも文字でやりとりできるようにQRコードの案内を導入するなど、当事者を含めいろいろな方の意見を取り入れています。
ーートイレサインも新しくなったそうですね。
N.A:
男女トイレを分かりやすくするため、入口に大きくピンクの女性ピクト、ブルーの男性ピクトをつけていたのですが、LGBTQの団体にヒアリングを行ったところ、色に抵抗があるという意見をいただきました。でも日本では多くの施設で同じような色分けをされていて、馴染みがありわかりやすいというメリットもある。そこで今回は男女のピクトグラムには色をつけずフラットに、色はワンポイントとして入れる形を採用しています。
ーーさまざまな方々の意見が取り入れられているんですね。
N.A:
可能な限り最善を求め、できるだけ多くの人が使いやすいトイレをめざして整備しました。トイレの個室サイズを通常より拡大したり、折れ戸にして間口を広くするなど、車椅子や荷物の多い方にも使いやすいサイズ感にしています。また、トイレの扉や壁の色を変えることで空き個室の状況が視覚的に分かりやすくなるような工夫と、耳の不自由な方にもライトの点滅によって緊急事態を知らせるフラッシュライトを設置しています。
「新しい空港体験」を、関西国際空港からたくさんの人に届けたい。
ーーリノベーション後、第1ターミナルビルで過ごすお客さまの様子に変化はありましたか?
K.T:
以前は、チェックインを済ませたら、物販店に寄って最後にレストランで……というのが定番の流れでしたけど、今は飲食店でテイクアウト商品を購入して物販店でのお買い物に時間をかける人が増えたように感じます。お客さまのターミナルビル内での過ごし方が変わってきましたね!
N.A:
私もそう思います。単なる交通手段ではなく、空港で過ごす時間も旅の楽しい時間の一つになり始めていて、関西国際空港のめざす「新しい空港体験」が実現に向けて動き出しているのを感じます。
ーー今後、ますます多くのお客さまに新しくなった関西国際空港 第1ターミナルビルをご利用いただけるといいですね!
K.T:
私の周りにもリノベーションしたことをまだ知らない人が多いので、もっとたくさんの人に新しくなった関西国際空港第1ターミナルビルを体験してもらいたいですね。なかでも私のおすすめは国際線の航空会社コモンラウンジ「KIX Lounge Kansai(*)」。関西をイメージした内装を始め、各地の美術工芸品によって美しく演出された空間が特別な旅の思い出になると思います。
*航空会社のラウンジ利用者向けのコモンラウンジです。各航空会社の利用条件があります
N.A:
いつも第2ターミナルビルを利用しているという方にも、これを期に第1ターミナルビルを利用してもらえたらうれしいです。通るときに少し緊張する保安検査場や出入国審査場は、木や和のテイストで温かみあるデザインになっていたりと、商業エリアだけではなく各所で過ごしやすい空間づくりをめざしました。ぜひ、旅の始まりから終わりまで、関西国際空港で素敵な時間を過ごしていただけたらうれしいです。
“Fly High”とは
より高みをめざし、未来を拓く取り組みを続ける関西エアポートグループの裏側には、空港を支えるたくさんの人の努力や願いが詰まっています。
「Fly High」では空港で働く人、空港とともに育った人、飛行機が好きな人、十人十色なストーリーを通じて、空港に携わる人たちの仕事に懸ける思いと描く未来をお伝えします。