世界中からたくさんの人が利用する関西国際空港の安全を、24時間365日守っているのが空港消防隊。航空機事故や火災だけでなく、自然災害などにも対応し、専門技術や知識が必要となる、空港消防隊の仕事とは――。
空港消防隊に憧れて入隊したフレッシュなUさんに、その魅力や使命について聞きました。
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U.T
関西エアポートオペレーションサービス株式会社 KIXエアフィールドオペレーションセンター(AFOC)第2消防隊救難班に所属。2025年1月にAFOC消防 消火班に配属となった後、4月より現行の救難班へ異動。以降、人命救助のための訓練や点検業務に注力する。
空港用化学消防車での消火活動に憧れ、空港消防隊へ
ーーまずは関西国際空港の空港消防隊のミッションを教えてください。
私たちの主な任務は、空港及びその周辺の航空機事故への対応と、空港各施設を災害から守ることです。関西国際空港を利用する方に、常に安全と安心を届けられるよう、日々訓練を行い、各種点検・整備業務に取り組んでいます。
ーー空港消防隊と一般の消防隊の違いはどんなところにありますか?
一番大きな違いは、航空機に特化した空港用化学消防車を使うところです。車内から操作して走行しながら放水ができること、航空機には大量の燃料を積んでいるため、水だけでなく大量の消火薬剤がノズルから出ることなどが一般の消防車両と異なる点です。消火のための大量の水や薬剤を積載できるよう、一般の消防車両よりかなりサイズも大きいです。
ーー現在、Uさんは空港消防隊1年目とのことですが、どんな訓練をしているんでしょうか?
今は先輩に教わりながら空港用化学消防車の操作・運転や、ロープを使った救助などの訓練をしています。空港用化学消防車の運転には大型免許が必要ですが、免許を取得できたからといってすぐに運転できるようになるわけではありません。事故が起きた際にはいち早く現場に向かうため、スピード感がある中でのコーナリングが難しくなります。数か月のトレーニング、テストへの合格を経て、初めて運転の許可が下ります。
管制塔との無線のやりとりや、航空機ごとの消火戦術を覚えるのに一苦労
ーーではここからは、空港消防隊の仕事について深堀りさせてください。空港内で火災が発生した場合、どのくらいの時間で現場に到着するのですか?
制限区域内のどこで航空機火災が発生しても、消防車両は2分以内の到着を目標とし、3分を超えないように現場に到着しなければなりません。とにかくスピードが大切ですが、消防車両が勝手に誘導路と滑走路に入ることはできません。どんなに急いでいても、まずは管制塔と無線交信を行い、許可を得てから消火に向かいます。
ーー管制塔とやりとりをするのも、空港消防隊ならではですね。
管制塔では常にさまざまな無線のやりとりが行われていますが、パイロットからの無線を決して邪魔してはいけません。そこに配慮しながら短時間で簡潔にやりとりするというのが思っていた以上に難しくて…。繰り返し練習してうまくなるしかないと思っています。
ーー航空機の火災が起きたときは、どのように消火活動をするのですか?
空港用化学消防車で航空機の火災部分に勢いよく放水をして制圧するのですが、乗客の安全が最優先。乗客の皆さんを守るために、航空機の構造をふまえたうえで素早く効率的な消火活動が求められます。航空機の型式によって、燃料タンクやドアの位置などが異なるため、型式ごとに消火の戦術を変える必要があるんです。
ーー世界中からたくさんの航空機が集まる関西国際空港ですから、すべての型式を覚えるとなると大変ですね。
そうなんです。まだ全てを覚えることはできていませんが、関西国際空港を利用する主要な型式の戦術は暗記しています。航空会社や関係機関の皆さんと訓練や研修を行うこともあり、最新の航空機の情報などを常に共有しています。
ーー訓練だけでなく、事例の研究も空港消防隊の大切な仕事なんですね。
そうですね。国内外で航空機事故が起きたときには、すぐに「どんな状況下で、なぜ起こったのか」などの情報を共有し、皆で話し合う場が設けられます。その上で、「もし、関西国際空港で同じことが起こったらどうなるか」を想定し、必要に応じて訓練を行います。関西国際空港は周辺を海に囲まれていますが、空港によって置かれている環境は違います。たとえ同じ事故が起きても、同じ結果になるとは限らないため、自分事に置き換えて研究し、訓練することが求められます。
医療や物資輸送の拠点・関西国際空港。その最前線に立つ意義と使命
ーー空港内で火災が発生したときだけでなく「周辺地域の安全を守る」ことも空港消防隊の役目ですね。
関西国際空港は医療や物資搬送の拠点として、インフラ面で大切な役割を担っています。その最前線で、空港だけでなく空港のある島全体や、さらにその周辺地域の安全も守ることが空港消防隊の使命だと考えています。そこに大きなやりがいを感じていますし、だからこそ日々の一つひとつの訓練や点検が大切だと思っています。
ーー空港周辺地域とはどのような連携をしているのですか?
年に数回、周辺自治体の消防隊の皆さんと合同で訓練を行っています。訓練以外でも必要に応じて情報交換をするなどして、いつも連携を図るような仕組みができています。国内での研修だけでなく、海外の空港に研修に行くこともあります。私はまだ参加したことがありませんが、過去の事故を踏まえた現場の声をしっかり聞き、国際基準でのより実践的な消火方法などを聞く有意義な機会だと先輩方から聞いています。私もチャンスがあれば、ぜひ参加してみたいです。
隊員は互いに命を預け合う仲間。空港消防隊は常にチームプレー
ーーここからはUさんのことを聞かせてください。なぜ空港消防隊をめざしたのでしょうか?
知人が消防職員で、その姿を見て昔から人の命を守る仕事に興味がありました。大学生のときに空港という特別な施設で、自治体消防とは異なるスキルや判断力が求められる自衛の空港消防隊の存在を知り、空港消防と自治体消防、両方の知識を得られることや、空港用化学消防車での消火活動に魅力を感じて志望しました。
ーー憧れだった空港消防隊として働いてみて、どうですか?
チームプレーが大切になる仕事だなと感じています。私は大学までサッカー部だったのですが、サッカーは誰かが自分勝手なプレーをしてしまうと、試合に勝つことはできません。空港消防隊でも自分勝手な行動をしてしまうと、自分の命も、共に働く仲間も危険にさらしてしまう可能性があります。互いに命を預け合う大切なチームの一員であることを忘れてはならないと、サッカーの経験を通じて気づくことができました。
ーー学生時代の経験が、空港消防隊の今に生きているのですね。
本番でのミスは許されないからこそ、日々の訓練や練習が大事で、コツコツ積み重ねるしかないという点もサッカーと空港消防隊の似ているところかもしれませんね。最初はうまくできなくてもいいから、練習から本番を意識して思い切りやるというのが私の学生時代から変わらないモットーです。先輩からも「今はそれでいいんだ」と背中を押してもらっています。
ーー最後に、空港消防隊としての今後の目標を聞かせてください。
今は自分も若手のひとりになりますけど、仕事を続けていれば後輩ができて、自分が指導の側に回ることもあると思います。そのときにしっかりと指導できるよう、訓練に集中して取り組み、わからないことは全て聞いて解消し、早く一人前になることが目標です。後輩から「困ったときはUさんを頼れば大丈夫」と信頼してもらえるように成長して「世界一安全な関西国際空港」をつくっていきたいですね。
“Fly High”とは
より高みをめざし、未来を拓く取り組みを続ける関西エアポートグループの裏側には、空港を支えるたくさんの人の努力や願いが詰まっています。
「Fly High」では空港で働く人、空港とともに育った人、飛行機が好きな人、十人十色なストーリーを通じて、空港に携わる人たちの仕事に懸ける思いと描く未来をお伝えします。